痩せても消えない皮膚の「肥満記憶」:減量後も持続する炎症リスクを東北大が解明

減量によって体重や血糖値が正常に戻っても、皮膚の免疫細胞は肥満時の状態を記憶し続ける。東北大学の研究が示したのは、過去は脳の外にも刻まれる、という静かな事実だった。

痩せても消えない皮膚の「肥満記憶」:減量後も持続する炎症リスクを東北大が解明
Photo by engin akyurt / Unsplash

減量後の皮膚が、炎症を起こしやすいわけ

肥満は乾癬(かんせん)やアトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患を悪化させることが知られている。肥満が慢性的な低レベルの炎症状態を全身に引き起こし、コラーゲンの減少による皮膚バリア機能の低下や免疫細胞の変化をもたらすためと考えられてきた。では、減量によって体重が戻れば、そのリスクも解消されるのか。

東北大学大学院医学系研究科の鎌田若奈大学院生(研究当時)、丹野寛大講師、菅野恵美教授らの研究グループは、マウスを使った実験で、減量後も皮膚の炎症リスクが持続することを明らかにした。2026年5月15日、Journal of Immunology Researchに発表された

研究グループは、マウスを通常食で飼育した群、高脂肪食で肥満を誘発した群、肥満後に通常食へ切り替えて減量させた群の3群に分け、皮膚免疫細胞の状態を比較した。

  • 通常群:18週間通常食
  • 肥満群:18週間高脂肪食
  • 減量群:高脂肪食9週間→通常食9週間

減量群では、体重・血糖値・コレステロール値はいずれも正常範囲に戻っていた。しかし皮膚の免疫細胞を調べると、炎症に関わる複数の遺伝子の発現が、肥満群と同じレベルで維持されていた。皮膚内の免疫細胞のバランスも、減量後に正常化していなかった。

続いて乾癬を誘発する実験を行ったところ、減量群と肥満群はともに通常群より重篤な炎症を示した。なかでも減量群の悪化は肥満群に匹敵し、計測タイミングによってはそれを上回った。皮膚のバリア機能も、減量群が最も大きく損なわれていた。

脂肪組織の「記憶」が、皮膚にも

細胞が過去の経験を保持し、外来の刺激への反応の仕方を変える現象は「免疫記憶」として知られている。ワクチンが機能するのも、免疫細胞が病原体との接触を記憶しているからだ。

近年の研究では、脂肪組織の免疫細胞が減量後も肥満時の状態を保持し続けることが報告されていた。Science誌(2023年)Nature誌(2024年)がその証拠を示している。今回の研究は、同様の「肥満記憶」が皮膚組織にも存在することを、世界で初めて示した。皮膚は面積・細胞数ともに体最大の免疫器官であり、その意味は小さくない。

この「肥満記憶」がなぜ持続するのか、研究グループはそのメカニズムの解明を今後の課題としている。

「記と憶」の視点:記憶の意味は文脈によって変わる

免疫記憶には、意図的に活用されるものがある。ワクチンはその典型で、免疫細胞に病原体の記憶を意図的に植え付け、次の感染に備える。今回見つかった皮膚の肥満記憶は、炎症性皮膚疾患のリスクを高める方向に作用することが示されており、それを有効に活用する手段はまだない。

ただ、免疫記憶の意味は文脈によって変わりうる。脂肪組織では、減量後も炎症反応が起きやすい状態の免疫細胞が残り続けることが確認されている。この細胞は、再び体重が増加した際には過剰な炎症を通じてインスリンの働きを妨げ、糖尿病リスクを高める。一方で、細菌感染の際には素早く働き、感染への抵抗力を高めることも報告されている。皮膚に刻まれた肥満の痕跡が最終的に何を意味するのかは、まだわからない。

脂肪組織での知見が示すように、肥満の記憶が何をもたらすかは文脈によって変わる。皮膚に刻まれた痕跡についても、今後の研究がその意味を明らかにしていくだろう。

情報源: 痩せてもリセットされない皮膚の「肥満記憶」を世界で初めて解明―減量後も皮膚免疫細胞は肥満時の炎症リスクを保持― | プレスリリース・研究成果 | 東北大学

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