934自治体調査から見た、公文書デジタル化と「知覚できない記録」
約7割の自治体が文書管理システムを導入しながら、9割以上が紙の保管スペースに課題を抱える。日本経営協会の調査が浮き彫りにしたのは、デジタルと紙が混在する現状だけでなく、「知覚できない記録」という課題だった。
デジタル化は進むが、紙との併存は続く
一般社団法人日本経営協会(Nippon Omni-Management Association:NOMA)は2026年6月18日、「地方自治体における公文書管理のデジタル化に関する調査2025」報告書を発表した。2025年11月12日から2026年1月8日にかけて全国1,788自治体を対象に実施し、934自治体から回答を得た。
前提として、現在保管中の文書量を「把握していない・わからない」と回答した自治体は49.1%にのぼり、そもそも管理対象の特定と文書保有量の可視化が必要な状況であることが浮き彫りとなっている。
文書管理システムの導入率は69.0%と約7割に達する。導入時期は「2020年以降」が30.4%と最多で、近年になって導入した自治体が一定数あることがうかがえる。特に「市(指定都市・中核市・施行時特例市を除く)」と「町・村」では2020年以降の導入比率が3割を超えており、比較的小規模な自治体でも整備が進み始めていることが示された。
庁舎内の紙文書の保管スペースがひっ迫しており、65.2%の自治体が「早急な対策が必要」または「外部移管を急いでいる」状況にある。将来的にひっ迫する見込みがある自治体まで含めると、9割以上が保管スペースに問題を抱えている。
デジタル化の効果として77.9%が「保管スペースの削減」を挙げる一方、阻害要因の最多は「紙文書とデジタル文書が混在し、紙の方が処理しやすい業務がある」(67.5%)だった。システムを導入しても紙を完全に手放せない業務が残り、移行が中途半端になっている実態がうかがえる。
現場が求めているのは「デジタル公文書の証拠性」の法整備
自治体が国に求めるアクションとして最多だったのは「デジタル媒体の公文書の証拠性についての法令等の整備」で、57.5%が挙げた。その背景には、デジタルで作成・保存した公文書が、行政手続きや法的な場面で「本物の公文書」として通用するかどうか、現行法には明示的な規定がなく、根拠が曖昧なまま運用されているという実態がある。
報告書の提言はそれでも新たな立法よりも管理のしくみを整えることが先決だと指摘する。作成の経緯や方式を合理的に説明・検証できる体制があれば、既存の法の枠内でも証拠性は確保できるとして、「アカウンタブルな文書管理のしくみを整備・運用することこそが、最良の証拠性の確保につながる」と結論づけている。
「知覚できない記録」の管理という課題
デジタル化が進むにつれ浮かび上がる課題を、報告書はこう表現している。「紙媒体からデジタル公文書への置き換えが進むほど、私たちは知覚によって認識することができない記録を管理するという難題に直面していくことになる」。
紙の文書は物理的に「ある」ことが確認できる。積み上がった量、紙の劣化具合、保管スペースの圧迫状況は、人間の知覚に直接訴えかける。9割超の自治体が保管問題を挙げるのは、記録の「物質性」が問題として認識されやすいからでもある。
デジタルの記録はサーバーのなかに存在する。正しく保存されているか、改ざんされていないか、必要なときに取り出せるか。自治体の担当者には、そのすべてを直接確かめる術がない。システムが正しく動いていることを信じるしかない。
本調査で「公文書の管理において重視する要素」のトップに挙げられたのは、「業務上のリスク(情報漏洩・紛失等)の防止・管理」(79.6%)だった。「知覚できない」からこそ、現場は漏洩や紛失というリスクに対して極めて敏感になっている。さらに状況を難しくしているのが、組織の分断だ。文書管理を統括する部門と、DX・情報システム部門が「別の部署である」と答えた自治体は76.6%(中核市に至っては100%)にのぼる。システムの専門家ではない現場の担当者が、自分たちのコントロールが及ばない別部署の「見えないシステム」に依存し、そのうえで記録の真正性を担保しなければならないという構造的な危うさがある。 57.5%が「デジタル媒体の公文書の証拠性についての法令等の整備」を求めるのは、こうした不安を制度への要求として表したものとも読める。
公文書管理法(2009年)は、公文書を「民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と位置づけた。その知的資源の形態が、知覚の届かない領域に移行しつつある。NOMAの調査が示したのは、制度整備の遅れという行政課題だけではない。記録が知覚の届かない領域に移行するにつれ、何をどう管理するかという前提そのものを根本から立て直す必要が生じている。
情報源: 【934の自治体が回答】デジタル化はすすむも、約9割が「紙文書の保管スペースに課題」と回答 -公文書管理デジタル化に関する調査報告書を刊行- | 一般社団法人日本経営協会のプレスリリース