「マンデラ効果」として広まった、大勢の他者と共有する記憶違い

ピカチュウの尻尾の先は黒くなく、モノポリーのおじさんに単眼鏡もない。それでも世界中の人が同じ誤りを確信している。「マンデラ効果」から記憶の構造を読む。

「マンデラ効果」として広まった、大勢の他者と共有する記憶違い
Photo by Gregory Fullard / Unsplash

名前の由来から

2009年、アメリカの超常現象研究家フィオナ・ブルーム(Fiona Broome)はあるイベントの会場で複数の参加者と、ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)が「1980年代に獄中死した」という記憶を話し合っていた。ブルーム自身、ニュースでの死亡報道を見た記憶があり、追悼式典の映像まで思い出せたという。

ところがマンデラは存命だった。1990年に釈放されて以降、南アフリカ共和国初の黒人大統領(任期1994〜99年)を務め、2013年に肺感染症で亡くなっている。

ブルームはこの体験をウェブサイトに書き、同じ記憶を持つ人を募った。するとまったく面識のない人々から、同一の「記憶」が次々と寄せられた。彼女はこれをマンデラ効果(Mandela Effect、通称マンデラエフェクト)と命名し、他の類似事例にも同じ言葉を使いはじめた。互いに無関係な人々が同じ誤りを事実として「記憶」している状態を指す言葉として、以来この名前は広まっている。認知科学の正式な術語としては「集合的虚偽記憶(collective false memory)」に相当する。

何を、どう間違えているか

事例は無数にある。特に広く共有されているものを四つ挙げてみる。

ピカチュウの尻尾。ゲームやアニメを通じて長く親しまれているこのキャラクターの尻尾を、多くの人が「先端に黒い帯がある」と覚えている。実際には根元がわずかに茶色がかった黄色一色で、黒い部分は存在しない。

ボードゲーム「モノポリー」のマスコット、リッチ・アンクル・ペニーバッグズ。山高帽と口ひげに加えて単眼鏡(モノクル)をつけている、という記憶を持つ人が多い。しかし実際には一度もそのような意匠は採用されていない。

映画『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』のダース・ベイダーの台詞。「Luke, I am your father」は映画史上最も有名な引用のひとつとされているが、実際の台詞は「No, I am your father」である。

国内の事例として、アニメ『巨人の星』のオープニングについての記憶がある。主人公の星飛雄馬が重い整地ローラーを引くシーンがある、という記憶を多くの人が持つ。ところが、そのシーンは実際のオープニングには存在しない。ローラーを引く場面自体は本編中に一度だけ登場し、その際に主題歌が流れる。オープニングの記憶と本編の記憶が混同され、定着したと考えられる。

『巨人の星』のような事例は日本国内に固有のものであり、マンデラ効果には文化圏に依存するローカルな例も少なくない。

四つに共通するのは、誤りが「いかにもありそう」の域を出ないことだ。紳士的なキャラクターは単眼鏡をつけていそうだし、ピカチュウの耳の先が黒ければ尻尾の先も黒いのが自然に思える。この「妥当性の感覚」が、記憶の再構成を誘導している。

科学が初めて捉えた

こうした事例は長らくインターネット上のミームとして流通し、心理学の正式な研究対象とはなってこなかった。背景には、名付け親であるブルーム自身が超常現象研究家であり、自らのサイトで積極的に発信してきた仮説がある。私たちは何度もパラレルワールド(並行世界)を行き来しており、そのたびに記憶が書き換えられている。今ある「誤った記憶」は、実は別の世界線で本当に起きていたことの名残ではないか、という仮説だ。マンデラ効果という言葉そのものが、当初からこうしたオカルト的な文脈と分かちがたく結びついていたのだ。

転換点となったのは、2022年にシカゴ大学のウィルマ・バインブリッジ(Wilma Bainbridge)とディーパスリ・プラサド(Deepasri Prasad)が発表した論文だ。心理学の主要誌 Psychological Science に掲載されたこの研究は、「視覚的マンデラ効果」を体系的に実験した最初の試みとなった。

40種類の有名な視覚アイコンについて正しいバージョンを含む複数の選択肢から選ばせると、7つのアイコンで正解率が3分の1以下にとどまった。しかも誤りはランダムではなく、参加者はほぼ同じ誤ったバージョンを選んだ。確信を持ち、大いに親しみを感じながら。

さらに重要な発見がある。ピカチュウやモノポリーのおじさんを一度も見たことがない参加者に正しい画像を提示し、短い時間の後で記憶させると、この人々も同じ誤りを再現した。正しいイメージを見た直後でさえ、尻尾の黒い帯や単眼鏡が記憶に付け加えられていたのだ。これはパラレルワールド説への明確な反証であるとともに、事前知識とは異なる何らかのメカニズムが記憶の形成に関与していることを示している。この研究はその後、独立したチームによる再現実験でも同じ結果が確認されている。

研究チームはさらに、ネット上に出回る画像そのものを調べている。Google画像検索をスクレイピングした調査では、スター・ウォーズのC-3POのように誤ったバージョン(銀色の脚がない全身金色の姿)の画像がネット上に多数、全体の約半数を占めるケースが見つかった。一方でピカチュウの黒い尻尾やモノポリーのおじさんの単眼鏡については、誤った特徴を持つ画像はほぼ存在しなかった。ピカチュウで5%未満、モノポリーのおじさんに至ってはゼロに近い。つまり「ネット上の誤った画像を繰り返し見たから記憶が歪んだ」という単純な説明は、少なくともこの二つの事例には当てはまらない。

研究者はここから、誤ったバージョンの画像そのものに、正しいバージョンよりも記憶に残りやすくさせる何らかの性質が備わっている可能性を指摘している。単眼鏡付きのモノポリーおじさんは、単眼鏡のない実際の姿よりも情報として際立っており、脳がその「際立ち」を記憶として定着させやすいのではないか、という仮説である。

脳の構造的な弱さ

なぜ人は揃って同じ誤りを犯すのか。研究者はいくつかのメカニズムを指摘している。

一つは「スキーマ駆動エラー」だ。スキーマとは記憶を方向づける知識のパッケージで、理解を助ける一方で歪みも生む。心理学者のフレデリック・バートレット(Frederic Bartlett)は1932年の著作『Remembering: A Study in Experimental and Social Psychology』で、人が見慣れない情報に接すると、自分の理解しやすい形に変換し、細部を省いたり作り替えたりしながら記憶することを実験で示した。モノポリーのおじさんに単眼鏡がある、という記憶には、同時代の紳士的なキャラクターとして単眼鏡がトレードマークの「Mr.ピーナッツ」との混同が関与していると考えられている。

もう一つは「ソースモニタリングの失敗」だ。情報の出所を忘れ、誰かから聞いた話や別の映像で見たものを、自分の直接体験として記憶してしまう現象である。『巨人の星』のローラーのシーンはその典型といえる。本編で一度見た場面と主題歌の記憶が結びつき、いつしか「オープニングで見た記憶」として定着した。異なる情報源が一つの記憶へと融合してしまったのである。

そして「記憶の社会的伝染」がある。誤った記憶は人から人へと伝わる。エリザベス・ロフタス(Elizabeth Loftus)が示した「誤情報効果」とは、事後に得た情報によって記憶が書き換えられる現象だ。それがソーシャルメディア上で日々、大規模に起きていると考えられる。

ただし、これらのメカニズムはマンデラ効果を完全には説明しない。バインブリッジ自身も、効果の原因は一つではなく今後の研究が必要だと述べている。初めてそのキャラクターを見た人が、見た直後に同じ誤りを犯すという事実は、スキーマや社会的伝染だけでは説明できない何かを示唆している。

マンチェスター・メトロポリタン大学のケン・ドリンクウォーター(Ken Drinkwater)は、パンデミックのような先行きの見えない不確実な時代には、誤情報や陰謀論がより広まりやすくなると指摘している。人は物事に「意味」を見いだそうとする傾向があり、マンデラ効果への信念もそうした心理によって強まる可能性があるという。

記憶はビデオのように過去を再生するのではなく、その都度「再構成」される。これは認知科学が数十年かけて明らかにしてきた事実だ。マンデラ効果が示しているのは、記憶の再構成が個人的な現象にとどまらず、見知らぬ人々のあいだで同じ形をとることがある、という事実である。ただし、あらゆる記憶がそうなるわけではない。なぜ特定の記憶だけがそうなるのかは、まだ分かっていない。

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