「守護者」は信頼に値したか。Wikipediaがarchive.todayを締め出した理由

Wikipediaが約69万5,000件のリンクの削除を決定した。archive.todayをめぐる新たな展開は、かつて「草の根の記憶の貯蔵庫」と評した前提を問い直す。

フォグガラスの後ろの人
Photo by Stefano Pollio / Unsplash

CAPTCHAに仕込まれた悪意、そしてアーカイブの改ざん

2026年2月、Wikipediaの編集者コミュニティがウェブアーカイブサービス「archive.today」をスパムブラックリストに登録し、サイト全体で約69万5,000件に及ぶリンクの削除を決定した。(Wikipedia blacklists Archive.today, starts removing 695,000 archive links - Ars Technica)archive.todayは、archive.isやarchive.phなど複数のドメインで運営されており、ペイウォールを回避する手段としても広く利用されてきたサービスだ。

ブラックリスト登録の理由は二点ある。一点目は、DDoS攻撃への加担疑惑だ。ブロガーのJani Patokallioによれば、2026年1月14日以降、archive.todayのCAPTCHAページに悪意のあるJavaScriptが埋め込まれ、ページを読み込んだユーザーのブラウザが知らないうちに彼のブログへのリクエストを自動送信させられていたという。Wikipediaからのリンクが約69万5,000件存在することを考えれば、Wikipediaも攻撃の増幅装置として意図せず機能していたことになる。

二点目は、アーカイブの改ざん疑惑だ。archive.todayが保存したウェブページのスナップショットに、Patokallioの名前が事後的に挿入されていたことが複数確認された。具体的には、アーカイブ内の別人の名前がPatokallioの名前に書き換えられていた。Wikipedia編集者がこの改ざんを発見したことが、ブラックリスト登録の最終的な決め手となった。

いずれもWikipediaコミュニティおよびPatokallioの主張に基づくものであり、archive.today側からの正式な釈明はない。archive.todayのウェブサイトからリンクされたブログに「DDoSをscale downする」と投稿した人物がいるが、その人物が運営者本人かどうかも確認されていない。

「記録の守護者」という像の揺らぎ

「記と憶」はかつて、FBIがドメイン登録業者Tucowsを通じてarchive.todayの運営者情報を求めた一件を取り上げ、このサービスを「権力による強制的な忘却に抵抗する、草の根の記憶の貯蔵庫」として論じた(ウェブ魚拓は誰の記憶を守るのか?)。

「記と憶」がその記事を公開したのは2025年11月のことだ。当時参照できた情報をもとにした評価ではあったが、今回の展開はその前提を正面から揺るがすものとなった。

今回の一件は、その評価を根本から問い直す契機となる。国家権力の介入に抵抗する姿勢を見せていた運営者が、一個人への報復として自サービスのユーザーを踏み台に使い、記録の内容を改ざんしていた疑いが持たれているのだ。「誰かの記憶を守る」存在が、「別の誰かの記録を歪める」存在でもありえた、という逆転である。

もっとも、この像自体も慎重に扱う必要がある。運営者が誰かはいまだ不明であり、攻撃の事実も「疑惑」の域を出ない。確かなのは、Wikipediaという公共インフラがその判断として約69万5,000件のリンクを削除したという事実だけだ。

「記と憶」の視点:匿名の記録者を、どこまで信頼できるか

archive.todayの運営者は一貫して匿名を貫いている。前回の「記と憶」の記事でも触れたように、2023年の調査でPatokallio自身が「才能あるロシア人による一人運営」と推測したに留まり、その正体は今も謎のままだ。Wayback Machineを運営するInternet Archiveが非営利組織として透明性を持つのに対し、archive.todayは運営者も所在地も不明な個人プロジェクトとして機能してきた。その匿名性は、権力の干渉から記録を守る防壁として評価されてきた側面がある。しかし今回の疑惑は、同じ匿名性が記録の恣意的な改ざんや個人への攻撃を隠蔽する盾にもなりうることを示唆している。

誰が記録するのか。その記録者を、私たちはどのような根拠で信頼するのか。archive.todayをめぐる一連の出来事は、デジタルアーカイブの信頼性が技術的な保存能力だけでなく、運営者の透明性と倫理性によっても支えられていることをあらためて問いかけている。

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