見ただけで、3週間残る:言語化できない視覚記憶の潜在的な長期持続を実証

数秒眺めただけの無意味な図形が、3週間後の認知判断に影響を与えていた。岡山大学・日本赤十字広島看護大学らの研究が示した、記憶の受動性と潜在性。

見ただけで、3週間残る:言語化できない視覚記憶の潜在的な長期持続を実証
Photo by Logan Voss / Unsplash

視覚記憶は、思っている以上に頑健だった

私たちは日常の中で、無数の視覚情報を通過している。信号の色、すれ違う人の顔、画面に一瞬映った図形。それらのほとんどは記憶に「残らない」と思われている。そもそも覚えようとしていないのだから、当然だ、と。

しかし岡山大学の寺澤孝文教授と日本赤十字広島看護大学の益岡都萌講師らの研究グループは、その前提を覆す実験結果を発表した。言語化しにくい無意味な図形を短時間(数秒程度)見ただけで、その視覚情報が少なくとも3週間にわたって詳細なまま保持され、後の認知判断に潜在的な影響を与えることを実験によって示したのだ。論文は知覚・認知心理学の学術誌『Attention, Perception, & Psychophysics』に2025年6月より公開されている。

3週間前の経験が、気づかないまま判断に影響していた

実験は2つのセッションで構成されていた。最初のセッションでは、参加者に図形を1つずつ画面に表示し、「角の数を数えて、その数字のキーを押す」という課題を行わせた。記憶するよう求めてはいない。このセッションで見た図形は20種類で、それぞれ2回ずつ計40回提示された。

実験で使用された図形のサンプル。異なるサイズ・形状の黒い三角形5つをランダムに組み合わせて作られた、言語化しにくい抽象的な形が用いられた。出典:益岡都萌ほか(2025), Attention, Perception, & Psychophysics / CC BY 4.0

3週間後、同様の角数え課題を行った。ただしこのとき使われた図形20種類のセットの半数は、1回目のセッションで使われた図形のうち10種類が含まれていた。

その直後、抜き打ちで再認テストが実施された。40種類の図形について、「さきほどの課題に出てきた図形かどうか」を判定させるテストだ。

参加者が判定を求められているのは、「さきほど(セッション2)の課題に出てきた図形かどうか」だけだ。3週間前に見た図形を思い出すよう求められてはいない。にもかかわらず、セッション2では見ていないはずの図形——3週間前のセッション1で見た図形——を「見た」と答える確率は、まったく初めて見る図形に比べて有意に高かった。意識的に思い出そうとしていないのに、過去の経験が判断に影響を与えていたのだ。

「記と憶」の視点:潜在記憶が問いかけるもの

記憶には大きく分けて、意識的に思い出せる「顕在記憶」と、意識に上らないまま行動や判断に影響する「潜在記憶」がある。今回の研究が注目したのは後者だ。

これまでの先行研究では、日常生活でよく目にする物体や情景など、意味のある視覚情報については潜在記憶の精度が示されてきた。一方で、言語化が難しい感覚的な図形でも同様のことが起きるかどうかは、議論が乏しかった。今回の研究はその空白を埋めた。

ここで重要なのは、被験者が「覚えよう」としていなかった点だ。記憶は選択の結果ではなく、意識が関与しないまま、視覚情報は3週間後の判断に作用し続けていた。

覚えた記憶は、ある程度自覚できる。いつ、何を、どのように経験したか。しかし潜在記憶はその逆だ。経験した事実すら意識に上らないまま、判断を変える。

この非対称性は、「自分が何に影響されているか」を知ることの難しさを示している。日々通過する膨大な視覚情報のうち、どれが判断の背景に織り込まれているのかを、私たちは原理的に把握できない。今回の研究は、視覚的記憶の頑健さを示すとともに、記憶と自覚のあいだにある溝をあらためて浮かび上がらせる。

私たちの判断は、自分が覚えていると思っている以上に、過去の経験に影響されているのかもしれない。

情報源: 視覚記憶の長期持続性~わずかな経験が認知と行動を生み出す~ - 国立大学法人 岡山大学

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